2011/06/02

著作権についての調査メモ

同人・商業に関わらず、イラストレーターにイラストを発注し、それを各種メディアに利用することは多いと思う。
同人系の人はほぼ趣味でやっているせいなのか、著作権についてはほぼ何も意識しないでで依頼して上がってきたイラストを各種媒体に使用しているようにも見受けられるが、これは著作権についてイラストレーターときっちりフォローしておかないと後々問題になりかねない結構危険なことだと調査の次第で発見した。

(ここでのイラストレーターは法人に所属せず、フリーで活躍しているイラストレーターを対象とし、外注契約としてイラストを製作しているケースを対象としています)

また、筆者は法律の専門家でもなければイラストレーターでもありません。イラストを発注する場合に注意すべきことを調べたら著作権について勉強する羽目になったのでこのコラムはその備忘録という位置づけになります。
そのため、このコラム内容の正確性は保証されません。著作権の紹介と個人的な主観が入った予想が一部含まれます。正確性が必要であれば、その他法律の専門家による見解が書いてあるページを参照してください


著作権とは


まず、イラストレーターと発注者(個人・法人に関わらず)が同人・商業に限らず金銭が発生する場合には著作権の譲渡が発生している。
著作権にはいくつか種類があり、大分類として著作者人格権と著作者財産権にわかれる。

著作者人格権とは、大まかに次の性質を持つ

  • 他人に譲渡できない

  • 自分の著作物で、まだ公表されていないものを公表するかしないか、するとすれば、いつ、どのような方法で公表するかを決めることができる(公表権)

  • 著作物を利用する場合は本名、変名(ペンネーム・ハンドルネーム)の表記、もしくは表記しないことを使用者に求めることができる(指名表示権)

  • 自分の著作物の内容又は題号を自分の意に反して勝手に改変されない(同一性保持権)

著作者財産権とは、大まかに次の性質を持つ

  • 他人に一部もしくは全ての権利を譲渡できる

  • 著作物を公に上映、展示できる。また、Web上に配置して閲覧可能にできる

  • 著作物を譲渡・頒布・複製・貸与できる

  • 自分の著作物を原作品とする二次的著作物を利用することについて、二次的著作物の著作権者が持つものと同じ権利

上記からも察することができるが、商業行為でやり取りする権利は著作者財産権であり、大抵のケースでは著作権と表記された場合、著作者財産権を指す。(この慣行に則り、下記で著作者財産権を著作権と表記する)

ここで注目すべきは権利を譲渡(もしくは使用許諾)するものであって、放棄することはできないということだ。放棄自体は著作権法にも明記されていないが、2011年6月現在では放棄できないものとする解釈が一般的らしい。

つまり、譲渡(もしくは使用許諾)に関わる条件によっては使用者(発注者)に対して権利の返却を求めることもできるわけだ。これを理解せず、「金を払ったんだから好きに使ってもいい」と勘違いした場合はトラブルのもとになりかねない。では、本来はどのような譲渡の条件があり、どのように扱えばいいのだろうか?

著作権の譲渡(もしくは使用許諾)に関わる契約


まず、イラストレーターの立場から見積もり~納品までの流れを見てみる。

  1. イラストレーターは発注者からイラスト内容、報酬と納期 の見積もり依頼を受ける

  2. イラストレーターは条件が合えば受注のため見積もりを発注者に送り返す。

  3. 発注者は見積もりを確認し、イラストレーターと契約を結ぶ。

  4. イラストレーターは契約に基づき、納品物を作成する

  5. イラストレーターは発注者に納品物を送付する

  6. 発注者は納品物を検品後イラストレーターに報酬をしはらう。

  7. その後発注者はイラストを商用利用して利益を上げる。

ざっとこんなものだろうか?
現場では「これやってほしいんだけどいくら?」「えーこれぐらいですかねぇ?」「わかった。じゃあそれをこれぐらいまでにやっておいてね」ぐらいのいい加減さで契約してるところも多いのではないかと思うが、口頭での契約も工程に分けると上記のような段階を踏むことになるだろう。

さて、工程7で明らかにしているように発注者はイラストを商用利用している。つまり、著作権の譲渡(もしくは使用許諾)が行われているわけだが、どの段階で著作権の譲渡が行われているだろうか?
著作権の譲渡自体が執行されているのは 工程5前後だろう。しかし、使用用途についての契約は工程3前後で行われている。
使用用途に関わる契約については実際には納品後に契約を別途かわしてもいいだろうが、(これは想像だが)そんな面倒なことをやっているケースは極々少数だろう。大抵の場合は発注と同時にそのイラストに対しての使用方法について、明示的、もしくは暗黙的に契約内容に盛り込まれている。

しかし、明文化されていない場合、イラストレーター側と発注者側に意識の乖離が見られれる、もしくは発注者側が良識の範囲外の使用(元イメージを変形し、イラストレーターの著作物人格権を侵害するような行為)を行った場合、イラストレーターとトラブルになりかねない。

そこで、発注時の作業報酬と一緒に著作権の使用許諾、もしくは著作権全ての譲渡契約(版権買取)を明確にしておくことが望ましいのだが、この契約方法にもいくつか種類がわかれる。

  • 著作権使用許諾契約(ライセンス契約)

  • 著作権譲渡契約(版権買取)

著作権使用許諾契約(ライセンス契約)


著作権使用許諾契約(著作物利用許諾契約とも)とは、著作権者(ライセンサー)が使用権者(ライセンシー)に対し、使用方法や使用条件などを定めて著作物の使用を許諾する契約。そこで、使用権者は、著作権者に契約で定められた使用料を支払う必要がある。これは、一般に「ライセンス契約」と呼ばれるらしい。

ここでの「契約で定められた使用料を支払う」というのは「発注時に契約したイラストに対する報酬」に含まれると考えて問題ないと思います。これは、即金であったり、売り上げに応じたロイヤリティだったりします。

著作権譲渡契約(版権買取)


著作権譲渡契約とは、著作権者から譲渡人に著作権を移転させる契約。これは、著作権の全部または一部を譲渡することができる。

著作権の全部を譲渡する場合はイラスト関連業界の版権買取に当たる契約だろうと推測される。ほとんどの場合は後腐れなく一括現金買取がなされているだろうと予想。

また、この契約の場合は、イラストレーターは権利の譲渡後、二次利用・配布、複製、変形加工を行われても、著作権(財産権)を全て譲渡するので指摘できない。当然使用範囲も限定されないため、雑誌・看板・HP等に掲載しても問題なし。ただし、イラストレーターの尊厳が著しく損なわれるような扱いがされる場合は別問題になるかと思います。

ただし、利用範囲が限定されず、期間等も設けることは無い契約になる場合がほとんどになると思われるため、買取料金は著作権使用許諾契約よりかなり割高にならないといけないはずなのだ。しかし、Web上の意見を見る限りは使用許諾契約の料金で著作権譲渡契約のごとき振る舞いをする発注者が多数いるようだ。

蛇足であるが、著作権は一昔前は色々と曖昧な形になっていた版権といわれており、アニメ・ゲーム業界等ではまだこれらの言葉が使用される場合が見られる。つまり、版権を細分化、明確化したものが現在の著作権になっているわけだ。

最後に


正直、著作権について調べるまではアナログだろうがデジタルだろうが絵そのものの所有権を売買しているものだと思っていたが、著作者財産権の一部または全ての譲渡に対して権利料を支払っていたのは驚きだった。

著作権使用許諾契約、著作権譲渡契約を締結することによって初めて発注者は著作物を扱える。これを知らないで金を出せばいいという発想ではトラブルになるのは必然だろう。

きれいにまとめると、お互いの立場と利益を尊重しあっていくのが大切。というところだろうか。

イラストレーターにイラストを作成してもらう契約(おまけ)


イラストレーターへの発注時に使用方法についての契約を結ぶことは説明したが、イラストの作成を依頼する契約はなんなのだろうか?
この契約は著作物製作委託契約と呼ばれ、本来ならばこの契約に対する対価と使用許諾契約、著作権譲渡契約とは別々の対価であることが望ましいのだが、イラストレーターの苦境を見る限りでは実際には製作対価に使用許諾契約、著作権譲渡契約に対する対価が含まれている場合の方が多いだろうと推測される。

著作物製作委託契約

著作物製作委託契約とは、コンテンツを外部の者に委託して製作してもらうための契約で、フリーのイラストレーターがイラストの製作を受注する契約。他にはホームページ制作委託契約、プログラム開発委託契約などで使用される。

外部に委託し製作されたイラストの著作者は、これらを製作した受託者(例ではイラストレーターに当たる)となります。これは、委託者(発注者)が製作に関する費用を負担した場合であっても変わりません。

そこで、著作権に関しては、著作権譲渡契約、またはライセンス契約を結ぶ必要があります。その際、独占禁止法と下請法(下請代金支払遅延等防止法)に注意しなければなりません。
公正取引委員会の定めた「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法の指針」によると、取引上優越した地位にある委託者が、一方的に成果物に係る著作権等の権利を帰属させたり、受託者の二次利用を制限することは、不公正な取引方法となります。
また、委託者が下請法上の親事業者となれば、契約時に別途、法定事項を記載した発注書を作成し、下請事業者となる受託者に交付しなければなりません。その中で、成果物に係る著作権の譲渡対価や使用料を定めなかったり、不当に定めた場合は、下請法が禁止する「買いたたき」や、「不当な経済上の利益提供」となります。成果物の不当な受領拒否や、やり直しも禁止されます。(「著作権について考えてみませんか」より抜粋)

参考文献





#2012/03/09 冒頭に免責事項……というより内容の正確性を保証しないことを明記。

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